| I will tell you. 公園のベンチに男が座っている。 木々の緑は濃く、太陽は正午を過ぎてもなお天頂で力強く輝いている。 初夏の光の下でスーツを着込んでいる男は、暑さにぼうっとなっているようでもある。 「やあ、来たね」 彼はとなりに腰かけた少女にそう言った。 目じりの下がった、おとなしそうな顔に似合う良い声だった。 「君が来たってことは、またここに誰か来るのかな?」 「きっとね」 レースがふんだんに使われた豪奢なワンピースを風にひるがえして、少女はうなずく。どこか寂しそうに。 それからしばらく二人は黙っていた。 並んで見上げる東京の空は、よく晴れていても薄墨色に煙っている。 木立の向こうに見える噴水が形を変え、そばで昼食をとっていたOLの一団から歓声があがる。 二人はそろって、遠い水しぶきが光るのを見つめていた。 「あれ? 何してんの、こんなとこで」 目の前で聞こえた声に顔を上げ、そこに立つ茶髪の青年をみとめるとベンチの男は驚いた顔をした。 「お前……肺炎とか言ってなかったっけ」 「もうなんともないよ。で、そのコ誰?」 となりに座っていた少女は立ち上がって丁寧に礼をした。 レースの奥からゆっくりと出てきた手が、握った銀色の刃を見せつけるようにちらりと角度を変える。 澄んだ黒い瞳で青年を見つめ、厳かに告げる。 「あなたを殺します」 細い手首に支えられたナイフが、きらめいた一秒後には青年の左胸にうずまる。 少女は表情を変えることなく、青年の胸にもたれかかっているような姿勢のまま。 ベンチの男が見守る前で、ぽかんと開かれた口から悲鳴ではなく穏やかな声がこぼれた。 「ああ……オレ、死んだよ」 身体を立てなおし、どこか遠くに向かって青年は微笑んだ。 少女は彼の言葉にはじめて笑顔を見せた。 ベンチに座っている男の胸元で、携帯電話が震えた。 「はい。ええ、先週から肺炎って言って。……そうですか」 少女はうつむいて、美しく光るナイフをレースの奥にしまい込む。 「はい、告別式には私が。……そうですね。よろしくお願いします」 男は立ち上がって、目を伏せている少女の頭をそっとなでた。 「昨日の夜中に、亡くなったって」 「そう」 「気づいてなかったんだね、あいつも」 「でなければ、声をかけたりはしないわ」 少女はゆっくりと噴水と反対の方向へ歩いていった。 公園のベンチに男が座っていた。 木々の緑は濃く、太陽は雲に隠されながらも力強く輝いていた。 スーツを着込んだ男が暑さにぼうっとなっているような顔で、一人の青年の死を悼んでいた。 |